院長ブログ

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院長の本棚(番外編)⑨

痛み、人間のすべてにつながる 新しい疼痛の科学を知る12章 モンティ・ライマン著 塩崎香織訳 みすず書房 【令和7年6月】

五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)には含まれませんが、痛覚(痛み)は大切な我々の感覚です。本書は痛みという現象について、色々な視点から教えてくれます。著者は皮膚科が専門の医師で、おそらく、無痛症などの皮膚の知覚異常症例から興味がスタートしたのだと思いますが、非常に幅広い視点で痛みについて語り尽くしています。

痛みは感じるものではなく、創り出されるものだ、と聞いて、信じる人は少ないと思いますが、沢山の知見が、そう教えてくれます。実は、痛みだけでなく、五感すべてが脳が創り出す仮設体系であり、実際に存在する物理的な現象をそのまま脳が感じているわけではありません。ちょっと難しい表現ですが、脳が仮定した状態と実際の物理的現象の差分を検証する(つき合わせる)ことが知覚の本質であることがわかっています。更に、痛みについては物理的な現象が存在しなくても、脳の仮設体系が作り出した枠組みで痛みが現れうる、という事を、種々の事例から著者が明示してくれています。加えて、脳内オピオイド系、カンナビノイド系、その他種々の神経伝達・修飾系の関与についても興味深いストーリーが語られています。そして、社会とのつながりや睡眠との関係も。

痛みという感覚について、全体を見渡すためには一読の価値のある本です。