
院長の本棚番外編⑪
ネクサス 情報の人類史 上・下巻 ユヴァル・ノア・ハラリ著 柴田裕之訳 河出書房新社 【令和7年6月】
ユヴァル・ノア・ハラリ氏は「サピエンス全史」で有名ですが、本書は彼の2024年の新作です。歴史学者である著者は、現在は人類史上もっとも重大な情報革命のさなかにあるが、それより以前に起きたことを理解しなければ、現在の状況は理解出来ない、といいます。
情報とはなんでしょう。著者は、情報は、真実すなわち現実を正確に表すものではなく、人と人を結びつけネットワークを生み出すことこそが本質だと説きます。そこからは、情報とは、真偽ではなく、どのようなネットワークを築くかであり、それが歴史を動かしてきた、との視点が生まれます。たとえば宗教も、国家も、企業も、貨幣も、みな、ネットワーク=物語、を信じることで成立した、といえるのです。つまり、人類は、虚構さえ共有できれば大規模に協力できる、という特性を持っているのです。現在は、インターネットやAIの登場でネットワークの規模が爆発的に大きくなり、情報がさらに重要となり、AIの脅威もそこに端を発すると言えるでしょう。
さて、下巻ではAIの台頭がもたらす変化が中心に語られます。AIはこれからの世界にどんな秩序を生み出していくのか。それが人間の意志とは別に進み出したとき、私たちは何ができるのか。著者は、自己修正メカニズムの付与が鍵だと言います。すなわち、我々が実行しているような、制度やシステムの誤りに気づき、変えていける柔軟性を持つことです。完璧な正解を求めることではなく、変化に合わせられる力こそが、人間の叡智であり、それがAIにも必要だ、というわけです。しかし、果たしてAIにその機能が実装できるのかは大きな課題であり、実効性には疑問が残されているように思えます。著者の思い描く方向に向かうのか、はたまた、現時点では想像できない着地点があるのか、これからの進展には気を許せないところがあるようです。